税法に多少の知見があるものとして、この八田さんの言ってる事のリアルさは、物凄く実感できる。彼らは確かにこういう事を言う。
一応、脱税の過小申告、無申告自体は事実で、それだけなら追加の税金を払っておしまいだった、という税法の基本をまず押さえておきたいと思います。
この人も、申告が必要と知らなかったから、追加の税金を払っている訳です。この事には、八尾さんと税務署の間に見解の相違はない。
申告すべき株券の受領を、申告に含めなかった。そのことによる過小申告、ここまでは事実で、税務署としても追加の税金は納めて貰えるので、何の問題もなかった。
しかしながら、そこで、「故意の脱税」である、という話に展開してしまい、争いになった訳です。
元記事で
「08年11月に国税が外資系証券各社に一斉に税務調査に入り、クレディスイスでも税務調査対象者300人のほとんどに過少申告が指摘され、そのうち100人がまったく株式報酬をまったく無申告だったのですが、刑事告発の対象になったのは私一人でした」
と言ってるので、調査の流れも明確で、クレディスイスという会社は、給与として株券を相手に渡しているが、源泉もしていないし、各社員もそれを申告していないのが明らかな資料を税務署が入手したのでしょう。
ということは、クレディスイスの全社員を調査すれば、国税側は確実に追加の納税をさせる事が出来る。なので一斉調査、という流れだと思われます。
八尾氏だけが告発された事について
「その人たちは全員、国税から故意であることを認めるよう言われ、その通りにしていたからです。」
と言っていますが、これもありえます。
この「故意」かどうかにこだわるのは、重加算税というものの規定が影響しています。
国税通則法第68条に、こう書かれています。
「納税者が(略)事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、(略)過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する」
納税者が仮装隠蔽を行ったかどうか、が非常に重要なのです。
たまたま忘れていたら、過小申告加算税。わざと仮装隠蔽を行ったら、重加算税です。
八尾さん以外の人は、「わざとやりました」と認めて、過少申告加算税よりも高い税金、重加算税を納める代わりに、検察などと争う法定闘争を避ける事が出来た訳です。
怖い事ですけど、結果から見れば、八尾さんも、もしかしたらその方が楽だったかもしれない。でもそれっておかしな事ですよね? やってもいない仮装隠蔽を認めて、高い税金を払わないと酷い目に遭わされるって、法もへったくれもないやん。暴力によって真実を歪めて税金を奪ってしまったら、租税法律主義は崩壊してしまう。
「株式報酬を受け取る社員は全員、それを受け取るための証券口座を米国のクレディスイスに開設させられていました。株式もその口座に入るので、支払地は米国でした」
恐らく、これが仮装隠蔽行為とみなされたのでしょう。海外に口座を作り、申告しなくて済むよう「仮装隠蔽」を行った、という解釈です。でも実際は、会社に言われて口座作っただけだし! って話ですよね。
「国税の人からは、給与明細をもらって、中身をちゃんと見ない人はいませんと言われました」
言う! 彼らはマジで、こういう自分達に都合の良い、当然の常識みたいな言い方をする! そんな人はいないでしょう、みたいなことを言って、誘導していくのを見た事がある。
「開封もせずほったらかしにする人はいくらでもいますよね。」
これはマジで八尾さんの言う通りで、この下りのリアルさを、自分は実感できる気がする。
「取り調べは一週間に3回ペースで、朝は10時から始まり、終わりは大体18時から20時頃。取り調べは数カ月間続き、延べ100時間以上に及びました」
検察は、マジでこれをやるんだけど、いつも思うけど、これ自体がもう拷問みたいになってない? 週3呼び出しでこんな事やられたら、そりゃやってないこともやったって言うでしょ。ほんとこの辺は、どうにかしたほうがいいよ。
「告発は09年12月ですが、知ったのは報道があった10年2月です。全世界に実名報道され、このせいで再就職の道は閉ざされました」
やばすぎるだろ、これも。
会社から知らん間に口座に株券振り込まれてて、気づかずうっかりしてました。って、そんなに重罪なのか、という所ですよね。
「査察部の統括官が言った、「証拠が見つかっていないから時間がかかっている。私たちの仕事は、あなたを告発することだ」」
これは査察部の統括官の言う通りですよね。査察の仕事はそれだから、何の他意もない事実だと思う。過少申告で税金とるだけなら、税務署か、資料調査課でいいんだし。
「私は逮捕・勾留を免れはしましたが、この5年間に多くのものを失いました。私自身、自分がえん罪に巻き込まれるまで、刑事司法の実態をまったく理解していませんでしたので、その矛盾を世に知らしめることが、自分の使命だと思っています」
こうおっしゃるので、まずこの人の言ってる事は事実だと推認できるという風に、私も自分の記事で言っておこうと思いました。
以前の記事で、痴漢冤罪は男女というより、司法の問題だという話に触れましたが、
何かと強引に自白を取ろうとしたり、自分達のストーリーに合わせて相手を締め上げるこの、日本風の刑事司法のやり方には問題があると思うのです。
最近なんか、固い記事ばっか書いてるなあ、と思いつつ、では。