相続税対策、実際、どのように相続税を安くしているのか。

以前の記事で、お金持ちはバリバリ相続税対策をする、なんて言ってしまいましたけど、具体的にどのような相続税対策があるのか、ポピュラーな奴から、ちょっとデメリットがあるやつ、そして脱税となってしまう場合がどういうもので、その脱税が見つかったり見つからなかったりするのに、どのような場合があるのか、今日は書こうと思います。

毎年110万円づつ贈与する

 

 もっともポピュラーなやり方で、リスクも余りありません。贈与税、というものがあるのですが、子供に毎年110万円を贈与しても、贈与税はかかりません。年間110万円を超えた場合、贈与税がかかるため、このような対策になります。

 注意点としては、本当に贈与したという事実が必要な事です。

 子供名義の通帳に110万円振り込んだ、と言いつつ、子供には贈与を受けた認識が無く、その110万円を振り込んだ通帳も親が管理している、となったらそれは贈与と認められず、子供名義で作った本人の預金とみなされます。

 これは人数がいればいるだけできるので、子供が二人、孫が二人いるなら、それぞれ110万円づつ、440万円を年間贈与できる事になります。人数が多ければ多いほど、年間の額は増やせます。

 また、110万円の贈与について、贈与税の申告義務はありませんが、ハッキリさせるために0納付の申告を出す人もいます。

 税金対策としては穏当なものですが、実際に孫に贈与するには、税法とは違う障害が出てくる事もあります。たとえば、14歳とかの孫に110万円を渡してしまうと、教育上の問題がでてくるかも知れませんし、子供達も、「お爺ちゃん、こんな小さい子にそんなお金!」みたいな話になってしまうかも知れません。さっき言ったように、本人に贈与を受けた認識が必要ですので、若いその孫が「へー、俺、毎年110万円貰えるんだ」と思ってしまうことに、問題があると考えるかどうか、というところがあります。

 まあ、セレブの方々は気にしないかもしれませんけどね。

 

贈与税の配偶者控除

 

 結婚して20年以上経った夫婦だと、居住用不動産を贈与しても、2000万円までなら贈与税がかかりません。ただし、贈与税の申告が必要です。

 申告するのが面倒なくらいで、さほど問題ないやり方です。

 ただし、配偶者に贈与する訳ですから、贈与後に妻と揉めて離婚とかなると、持ち家に対して登記名義を2000万円分妻が持っているとかで、ややこしくなる可能性はあります。強いて言えばそれぐらいでしょうか。

生命保険の非課税限度

 生命保険は、法定相続人×500万円まで、相続税の対象になりません。

妻一人、子供二人なら、1500万円の生命保険を奥様が受け取っても、相続税がかからない事になります。だからまあ、お金もちは生命保険に入ります。ただ生命保険に加入するだけなので、大したデメリットもありません。

 

 ここから、もうちょっと難しい対策になります。

孫などを養子縁組し、養子とする。

  以前にも記事に書いたのですが、相続税基礎控除は、

 3000万円+(法定相続人の数×600万円)です。

 ということは、孫は法定相続人ではないですが、養子にすることで法定相続人となり、基礎控除が600万円増えます。

  実子が居る場合は、養子によって増やせる基礎控除は一人までです。

 

 * 幾つか例外事項があり、まず、「養子の数を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、その原因となる養子の数は、養子の数に含めることはできない」というルールに一応なっていますが、相続税を減らすためだけに養子にしました! などと言わない限りは、これは適用されないでしょう。よほどな事がない限り、これが適用されたのを見た事がありません。孫を養子にした理由は、家族の結束がこうするとより強まると思った、とか言っておくだけでも、それを否定するのは難しいと思われます。

  もう一つは、実子がいない場合などで、養子を作る事で法定相続人が減る場合があるのですが、余りにマニアックなので省略します。

 

 養子を増やす効果は、基礎控除を600万円増やすだけではありません。下は、相続税の税率表ですが、これは財産を法定相続分で分けたとして計算されます

 

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

 

たとえば基礎控除や各種控除後に3億円の財産があり、妻一人、子供二人であれば、法定相続分にしたがうと、妻1億5千万、子供7500万づつに税率表をあてはめて、妻に4300万円、子供一人当たりに1550万円の税額がかかり、合計で74,000,000円の税金がかかる事になります。(配偶者控除は考えない)

これが、養子が増える事で、法定相続人が一人増えますので、妻1億5千万、子供達3人はそれぞれ5000万円で税率をあてはめますので、合計の税額が59,000,000円となり、税額が1500万円下がる事になります。(厳密には、養子は税額に二割が加算されるが、それは割愛する)

 このような節税効果があるため、孫を養子にする、という節税策はよく見かけます。問題は、子供夫婦が、自分の子供を祖父の養子にすることを承諾するかどうか、という問題があり、家族会議が必須になるでしょう。節税の道は険しい訳です。言い出したら、なんで兄貴の子供は養子にいれて、俺の子は養子に入れないんだ、みたいなことを言い出されるかもしれないし、税金だけ考えて実行するにはハードルもあると言えばあるのです。

不動産を買う。

 

何故、不動産を買う事が節税になるのか、については、相続税評価というものを説明しなければならないでしょう。

相続税は、亡くなった人が持つ全ての財産に課税しますが、それは銀行預金だけとは限りません。当然、不動産もある筈です。

さて、では、不動産の値段とは、幾らでしょうか?

パッと金額を言うのは、なかなか難しいのではないでしょうか。

そこで、相続税では、不動産について決まった評価方法を使っています。厳密には鑑定士の評価で出しても良いのですが、原則は路線価を使います。

 

www.rosenka.nta.go.jp

国税庁HPに、路線価は乗っています。上のリンクですね。

これは「相続税評価のためだけに」作られた専用評価で、道の一本一本に値段が入っています

たとえば、この道に面している土地なら、1平方メートル当たり14万円、というような決め方と、図になっています。あとは土地の面積をかけるだけ、という評価方法です。厳密には、二路線に面していた場合とか、土地の形状を考慮するとか細かい話がありますが、路線価評価の話は、それだけで一冊の本になるくらい深い話なので割愛します。道の値段に面積をかけるよ、というぐらいの理解で構いません。

建物は、市役所が出している固定資産税評価で評価します。

さて、なんで不動産を買うと節税になるかというと、「路線価は基本的に時価の8割程度になるように決められている」から、というのがあります。

1億の土地でも、路線価で評価すると8000万円になるので、相続税が安くなる、という考え方です。

 なんでそうしてるかというと、まず、不動産は換金が大変で、流動性に欠けるために、そのままの時価で課税すると納税が大変になりすぎます。

 次に、土地の時価というものが、余りにも簡単に変化するので、納税者有利の原則を考え、できるだけ安めに評価しておく、という考え方に基づいている筈です。

 そのような理由で、不動産を買う事が相続税の節税になる訳です。

 また、今ではやや規制されたのですが、タワーマンションの最上階を買う、みたいな考え方もありました。

 道に対して値段が入っているということは、最上階でも1階でも、路線価は同じ値段になります。面している道は変わらないので。

 固定資産税評価額も、かつては最上階でも1階でも大差ありませんでした。

 よって、1億で買ったタワーマンションの最上階が、相続税評価だと5000万円になる、みたいな事がありえた訳です。

 細かな話をすれば、誰かに貸し付ける事で、貸家評価と、貸家建付地評価になって評価額が下がる代わりに家賃を取るだの、無償返還の届け出をだしてどーたらこーたらだの、不動産関係の相続税節税はかなり深いのですが、まあ、不動産を活用して相続税評価が下がるようなやり方が色々ある、という事です。

 これには明確なデメリットがあって、それは一般的な不動産購入のデメリットと同じです。

 不動産を1億で買いました。でも、相場が崩れて誰も買わない不動産になってしまいました。相続税は下がりましたが、売れない不動産を抱えて、子供は固定資産税を毎年払う事になってしまいました。なんとか売却したものの、3000万円にしかなりませんでした。

 となった場合、1億を相続して、相続税を払った方がお金がたくさん残ったのでは? となってしまいますよね。

 要は不動産が値崩れしたり、外れだったりした場合に、節税した金額よりも損してしまう可能性があります。

 物事を節税だけの観点だけで見ると、かえって損することもあるという事です。

 

 さて、ここからは闇の世界です。どのような脱税が指摘されうるのか、という話になります。

家族名義預金

恐らく最も多いのが、専業主婦だった筈の妻名義の口座に3000万円があり、亡くなる二年前に被相続人の口座から出金したお金でその口座が作られていた。

というような脱税です。

脱税と言う意識は特にない場合も多いのですが、これは相続財産になります。これを相続税で申告しなくていいなら、重病になった瞬間、家族名義預金を作りまくれば良い事になってしまいますので、当然、相続財産とみなされます。

しかし、です。

20年前に妻名義の口座3000万円を作って、妻は若い頃は会社員をしていて収入があった時期もあるし、パートもちょっとしていた。

20年後に相続が起きた時に、この口座が出てきました。

果たして、税務署はこれを相続財産だと証明できるのか。

けっこう難しい、とだけ。証明できない可能性も、もちろんあります。

銀行の記録も、7年、どんなに限界を見ても10年保存してたら大したもんでしょう。銀行も国税局も、元締めは財務省ですから、銀行はそう簡単に国税局には逆らえません。しかし、そもそも、保存していないものは見れない。

20年前に出来たこれは、相続財産だと証明できない可能性がある。

ただし、これは狙ってやるのは非常に難しいです。

俺は20年後まで生きる! と言って妻名義の3000万円の口座を作ったところで、翌年に死んだら完全に課税されますからね。

人間に、20年の計画はけっこう難しいです。

しかしながら、20年前に口座を作ったら、その時点で贈与税の筈では? と勘の良い皆さまはお気づきの事でしょう。

何故贈与税の対象になっていないのか?

法人税の調査を受けた、所得税の調査を受けた、相続税の調査を受けた、という話はあっても、贈与税の調査を受けた、なんて話は殆ど聞いた事がないのではないでしょうか。

実は贈与税というのは、相続税の補完税という位置付けで、単体で重要な機能を持つ税金ではありません。

贈与税が存在しないと、相続税が無意味化するために作られています。

仮に贈与税がないとしたら、死ぬ前に家族に贈与しまくればいいだけなので、相続税という税は全く意味を失います。

そのために贈与税は創設された訳ですが、結果、単体の調査が異様に困難な税目となっています。

だって考えて欲しいんですけど、全国民の預金を常に監視でもしていない限り、誰かが3000万円の口座を作った。さあ調査しよう、とはならないでしょう。

仮に、夫が妻名義の口座を作っただけで、いちいち調査をしてたら、とんでもない事務量になる上に、そこに仮に5000万円を入れたとしても、名義はそうしたけど、妻が使っているクレジットカードの引き落としをそこからするためです、とか言われたら、それは贈与ではない可能性が高い。夫婦で生活するのに、夫の収入で出来た妻名義預金で、夫婦の生活上のクレジットカードの引き落としをするのは、贈与ではないでしょう。妻名義にしたのは、妻のクレジットカードを使うためで、夫婦は生活共同体ですから、それは別におかしくない。

他にも、一時的に貸して、返してもらうつもりだった、と言ってその5000万円を、ぽんと夫の預金に戻したら、それで終了してしまう。

 

 贈与税というのは、夫婦や子供に対するお金の動きなので、相続が起きない限り、証明が難しい、曖昧な税金です。父親が子供の生活費や学費を出すのは当然ですし、妻の生活上必要なお金を出すのは当然なので、それは贈与ではないのです。

 だから調査をしたところで、徒労に終わる可能性が非常に高いため、余りしません。

 

 贈与税というのは、相続税とセットになる事で意味が出てくる税金なので、少なくても単独の預金の動きでただちに調査したりすることは、まずないのです。

という理由で、妻名義の預金5000万円を作って、20年たちました。証明が難しいです、という状況がありうる訳ですね。ただし、証明されてしまったら、相続税がかけられてしまいます。

 

適法じゃないので、何が起こるか分からない。

 

 いちおう、贈与税の時効は、大体7年と考えたらよいのですが、相続が起きた場合は7年前の預金でも時効はほぼ無意味化します。

 何故なら、その7年前に作った預金は「相続財産」であり、今現在起きた「相続税」の対象なので、贈与から7年たっているとか関係ない、という話になってしまう可能性が高いのです。

 この辺を悪用しようとして、現金で出金して、なんとか子供や妻に現金を渡しておこうとか何とかかんとかし始めたりするのですが、バレたら重加算税とかになる可能性も出てきますし、金額によってマルサが出て来たりすると大変な事になります。

 税務署とマルサの差は何かというと、税務署は税金を徴収するのが目的ですが、マルサは立件して検察に引き渡すのが目的です。

 マルサが出てくると、もはやお金の問題ではなくなります。

 逮捕歴がつき、前科者になります。それがマルサの目的です。

 お金持ちからすれば、たとえどんなに可能性が低くても、そのリスクのとんでもなさは無視できないので、脱税は避けるものだと思われます。

 また、20年とか経過したらバレないかも、みたいな話ですけど、20年生きるなら、まず本人にお金が必要なので、なかなか贈与という感じにもならないでしょう。

 基本的には、脱税はリスクが高い上に難しい、という事です。

結論

相続対策は、

1 110万の贈与(相続時精算課税とかもあるけど、省略)

2 婚姻20年の配偶者の2000万居住用不動産贈与

3 生命保険

4 孫との養子縁組

5 不動産購入

というのが基本的なものになります。

あとは、個別の事情に合わせて、様々な手法が出てくる事でしょう。

法人の代表者なら、自分の役員報酬を減らして息子を役員に入れたりとか何とか。個人事業者ならその事業に息子を入れてどうとかこうとか。個別的な事情を勘案したやり方を専門家が提案する事になると思われます。

 

まあ、こういうものを駆使して、お金もちは相続対策をする、というお話しでした。